『彼は昔の彼ならず』あらすじ&解説!僕と君の関係とは?

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『彼は昔の彼ならず』あらすじ&解説!僕と君の関係とは?

『彼は昔の彼ならず』の紹介

『彼は昔の彼ならず』は太宰治の書いた短編で、短編集『晩年』の中に収録がされている作品です。

作品自体は昭和9年に発表されており、太宰は当時25歳でした。

前年発表した『道化の華』で、自分で自分の文章に解説(ツッコミと呼んでもいいかもしれません)を入れてみるなど、自分の作品スタイルや文章の構成への不満、不安から新しい挑戦的な部分が多くみられました。

そこから書いている太宰の作品はどれも実験的にいままで書いてなかった作風に挑戦している節が見られます。

今回は、その作風の挑戦にも該当しているとされている『彼は昔の彼ならず』に関して考察してみようと思います。

『彼は昔の彼ならず』ーあらすじ(概要)

君にこの生活を教えよう。知りたいとならば、僕の家のものほし場まで来るとよい其処でこっそり教えてあげよう。

太宰治『晩年』(彼は昔の彼ならず)新潮文庫

上記の文章から序章が始まります。最初の登場人物は「僕」と「君」の二人です。

主人公の「僕」は「君」に向けて自分の家の紹介、自慢、そして周囲の家のことについて詳細に話し始めます。

見渡せる郊外の家。桃の湯という銭湯。質屋の土蔵。細君をぶち殺した左官屋の家。

いろいろと紹介し終わった後で、今回のメインであるとある家の話に入っていきます。はじめから「僕」はあの女を見せたかったのだそうです。

「あの女」の住む家はもともと「僕」の家でした。「僕」は間取りも日当たりも悪くない家を家賃18円で貸していました。

今までの貸主は技師、水泳選手、銀行員と様々な職種の人物に家を貸してきて、当時ところどころ不満はありつつ、今になって考えるとよい店子だったと思えるほどに、いまの貸主になってからすべてがマイナスになってしまいました。

その理由は家賃を払わないからです。

その男は青扇と名乗っていました。「あの女」はその妻です。

木下夫婦は初めからすこし変でした。

引っ越しが終わってあいさつに来た時に5円切手の入った袋をおしるしにと渡され、「僕」は不愉快な気持ちになりました。

怒りの気持ちをもって5円切手も返し、ガツンと言ってやろうと家に上がり込むも、青扇夫婦にあったとたんになぜか、僕は怒れないどころか握手まで交わし万歳ととなえました。

いつ話を切り出そうか考えている間青扇は将棋まで持ってきて熱狂するまで勝負をし続けました。

勝負の後、実は青扇は無職であり、名刺に書道家を書いたのは「僕」が無職であれば貸してくれないと聞いていたためだといいます。

5円切手の片を付けようにも先延ばしになり、結局お酒が入ってからはいい気分になってしまい、しまいには「君が好きだ」とお酒でいい気分になった僕と青扇は握手を交わしていました。

それからというものの僕と青扇の“おかしな付き合い”が始まっていき、かといって青扇がなにものかはよくつかめずにいました。

そして僕は、青扇はどうしても普通ではないと感じてしまい、敷金も切手も自分から言わずに黙っていましたが、3、4か月たっても家賃も敷金も音沙汰なくそのままになってしまい、しびれを切らして青扇のもとへ向かいます。

なんとマダムは家を出て行ってしまっており、家賃はもう少し待ってほしいと懇願されます。

そこからまた数か月、結局向こうからはなんの音沙汰もなく、また改めて青扇のもとへ向かいます。

家賃に関しては、職が見つかったからもう少し、とせがまれます。

そしてその職業とは「小説」でした。

せっかく職に就き駆け出した青扇を案じ、また僕は待ちますが、家賃は一向に払われません。

そうして何度も青扇に家賃の話をしに行くたびに僕は次第に相似を感じるようになっていました。

それが僕にとっては不安とするものであり、思い悩むようになってしまっていました。

それからしばらくして、最初のマダムが青扇のもとに戻ってきていました。偶然会ったそこで青扇の人となりを少し話してくれます。

根っからの怠け者であること、みんなに悪いことをしているせいで友達に頼れないこと、いつも正しい年齢を言わないことなどです。そんな話をしているときにマダムを迎えに来た青扇に会いました。今度は手相に興味を持ち始めていました。

それきり、青扇にはあっていません。ずいぶん青扇に振り回された1年でしたが、僕は青扇と自分が似ていたから息苦しい結果になったと解釈をします。

この話はそんな青扇に振り回された1年、僕の記録と考えを綴ったものでした。

『彼は昔の彼ならず』―概要

主人公

重要人物

青扇

作者

太宰治

この話の主要な登場人物は大きく3人です。

  • 僕…大家
  • 青扇…「僕」の家を借りている店子の若者。
  • マダム…青扇の妻。

その他青扇の別の女性も登場しますがここでは割愛します。

『彼は昔の彼ならず』―解説(考察)

概要にて書き出した人々が主要人物になりますが、実はもう一人、「君」という存在がこの物語にはいます。

ここではこの「君」についてまず考察しようと思います。

【僕と僕が語り掛けている君の関係】

冒頭部分と、最後の締めの部分に「君」という人物が出てきます。

この「君」は主人公の「僕」が自分の考えを語りかけている対象の人物になります。

冒頭には、「もっとこっちにくるとよい」と「君」に言っているので、「君」はまるで僕の近くにいる存在のように表記があります。

ただ、「君」はそれに答える描写はありませんし、青扇の生活を語る物語の中間部分には全く存在しません。

また、最後の締めの部分で、僕は「君」にこう語りかけます。

おい。見給え。青扇の御散歩である。あの紙凧のあがっている空地だ。横縞のどてらを着て、ゆっくりゆっくり歩いている。なぜ、君はそうとめどもなく笑うのだ。そうかい。似ているというのか。

太宰治『晩年』(彼は昔の彼ならず)新潮文庫

ここでも「君」が返答する描写はなく、あくまでも僕が「君」が答えたていで回答をしています。

これは現代ではよくシナリオゲームやなどで使われる描写かと思います。

プレイヤーの言動を登場人物が代弁する、という方法になります。

こうした書き方から、ここでの「君」というのは物語の外にいる読者を示した言葉として解釈しました。

ではこの作品は、あくまで「僕」が「君」に語り掛けている・伝えているという文章構造であるという前提で、次は青扇と「僕」について考察します。

【青扇と僕】

この話は一言でいうと「僕」が、家を貸した「青扇」にいろいろと振り回されるお話です。

特に振り回されたのは「お金」の部分になります。

家賃滞納、最初に支払わないといけないものも払わずに「もう少し待って」を青扇は繰り返し、いくら「僕」が説得してものらりくらりとかわし続けています。

そんな関係を続ける中で、最初は「変な人」という印象でとどまっていたものが、次第に「僕」は青扇に「苦手意識」を持つようになります。

会いに行くのにも気力がいるほどに、です。この感情の理由は「僕」にはわかりませんでした。

しびれを切らして青扇のもとに会いに行くたびに青扇の境遇は変わっていました。

妻が出て行った、小説を書いている、違う女性が家にいる、手相に興味を持ち始めた、などです。

そうしてこうした変化とともに青扇に会うたびに、この苦手意識の招待がわかってきます。

「僕」はこう感じているのです。

突然、僕と彼との相似を感じた。どこというのではない。なにかしら同じ体臭が感ぜられた。君も僕も渡り鳥だ、そう言っているようにも思われ、それが僕を不安にしてしまった。

太宰治『晩年』(彼は昔の彼ならず)新潮文庫

青扇と「僕」のどちらがどちらに作用しているのかはわからないものの、次第に青扇との共通点を感じるようになっていきます。

考えすぎるうちに「僕」は彼にこだわり始めてしまいました。

これが、僕を1年間「不自由」にさせた所以であると、考察しました。

上記を踏まえたうえで、先ほど引用した最後の文章をもう一度見ます。

最後の締めの部分で、僕は「君」にこう語りかけます。

おい。見給え。青扇の御散歩である。あの紙凧のあがっている空地だ。横縞のどてらを着て、ゆっくりゆっくり歩いている。なぜ、君はそうとめどもなく笑うのだ。そうかい。似ているというのか。 ――よし。それなら君に聞こうよ。空を見あげたり肩をゆすったりうなだれたり木の葉をちぎりとったりしながらのろのろさまよい歩いているあの男と、それから、ここにいる僕と、ちがったところが、一点でも、あるか。

太宰治『晩年』(彼は昔の彼ならず)新潮文庫

この「君」を読者、と定義した場合、この締めの文章は下記のような描写になります。

  • 読者の君はこの物語を聞いて青扇と僕が似たもの同士だと思って笑っている
  • 僕と青扇に違うところはあるのか?と質問している

普通似ていることに反応するなら「どこが似ているのか」を聞くと思いますが、ここでは「違うところがあるか」と聞いているので、これは「僕」自身もかなり似たもの同士であるということをしっかり自覚している描写というように解釈ができます。

以上のことから、「僕」は青扇に関し、かかわるにつれて共通点を見出すにつれ、それが自分を不自由にさせていたとこの1年を振り返っています。つまり、青扇に対して「同族嫌悪」をしていた、という解釈ができると思います。

以上、『彼は昔の彼ならず』のあらすじ&解説でした。

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akarimaru

読書が好きで大学は文学部を選び、当時は近現代の文学を専攻していました。特に非現実的な話が好みです。漫画もよく読みます。自分の好きなことを考察し綴ることが好きで記事を執筆しています。