『ドリアン・グレイの肖像』あらすじ紹介!作者ワイルドと同性愛について

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『ドリアン・グレイの肖像』あらすじ紹介!作者ワイルドと同性愛について

『ドリアン・グレイの肖像』の紹介

『ドリアン・グレイの肖像(The Picture of Dorian Gray)』は、アイルランド出身のオスカー・ワイルドによる唯一の長編小説で、1890年に発表されました。

金髪碧眼の美青年ドリアンが、快楽に耽り堕落、そして破滅に至るまでを描いた物語です。

ここでは『ドリアン・グレイの肖像』のあらすじ・解説・感想までをまとめました。

『ドリアン・グレイの肖像』ーあらすじ

逆説家で皮肉屋のヘンリー・ウォットン卿は、友人の画家バジル・ホールウォードのアトリエで並外れた美青年の絵を目にします。

この絵のモデルとなったのは、ドリアン・グレイという若く美しい青年でした。

ヘンリー卿はドリアンに自身の思想を開陳し、快楽主義的な道へと誘います。

ヘンリー卿に感化されたドリアンは、バジルが描いた自身の肖像画に向かって「自分ではなく肖像画の方が年を取ればいいのに」と言い出し、肖像画を自分のものにします。

ヘンリー卿の影響で快楽主義的な生活を始めたドリアンは、舞台女優のシビル・ヴェインと恋に落ち、婚約をします。

しかし、恋を知ったシビルが以前のような素晴らしい演技ができなくなると、ドリアンは失望し、冷たくあしらってしまいます。

その夜、ドリアンの肖像画の口元が醜く変貌していることに気付き、ドリアンはシビルにした態度に良心の呵責を覚えますが、シビルは自殺してしまいます。

肖像画の更なる変化を怖れたドリアンは、古い屋根裏部屋へ絵を隠し、部屋の鍵も自分で管理するようになります。

それから20年後。

若々しい美貌を失わず享楽的な生活を続けるドリアンを、画家のバジルが訪ねてきます。

バジルはドリアンの悪行の噂について真偽を問いますが、ドリアンは否定もせず、バジルに例の肖像画を見せました。

肖像画の恐ろしい変貌に取り乱し、バジルは救いを求めて祈りますが、我を忘れたドリアンはナイフでバジルを殺害してしまいます。

そして、弱みを握っている科学者に死体処理を押し付け、バジルの持ち物はドリアン自身で燃やしました。

罪の意識に苦しむドリアンは阿片窟に出入りするようになり、そこである男に殺されかけます。

その男とは自殺したシビルの弟、ジェイムズ・ヴェインでした。

ジェイムズはドリアンの若々しい姿をみて人違いを謝りますが、その後にドリアンが老いないという噂を知り、郊外のパーティーまで追いかけてきます。

しかしそこで兎狩りの誤射によってジェイムズは命を落とします。

安堵したドリアンは、これまでの生き方を悔い、改心しようとします。

ドリアンの重ねてきた罪悪を反映するように、彼の肖像画は醜く変貌を遂げていました。

耐えかねたドリアンは、ついに肖像画にナイフを突き立てます。

響き渡った悲鳴を聞き、屋根裏部屋へ駆けつけた者が見たのは、美青年の肖像画と醜く老いた男の死体でした。

『ドリアン・グレイの肖像』ー概要

主人公 ドリアン・グレイ
主な登場人物 ヘンリー・ウォットン卿(愛称ハリー)

バジル・ホールウォード(画家)

シビル・ヴェイン(舞台女優)

ジェイムズ・ヴェイン(シビルの弟・水夫)

主な舞台 ロンドン
時代背景 19世紀
作者 オスカー・ワイルド

『ドリアン・グレイの肖像』ー解説(考察)

<保守的な価値観への挑戦>

オスカー・ワイルド『ドリアン・グレイの肖像』がある月刊誌に登場したとき、社会は大きな衝撃を受けたといいます。

当時はヴィクトリア朝の時代で、勤勉・禁欲・節制・貞淑の保守的な価値観が主流でした。

そこに現れた『ドリアン・グレイの肖像』は、あまりにも反社会的で非道徳的であると各方面から非難されました。

しかしワイルドは、それに対して反論します。

『ドリアン・グレイの肖像』が単行本化された際に「序文」をつけ、芸術至上主義を宣言したのです。

ここに「序文」の一部を引用します。

芸術家とは、美なるものの創造者である。
芸術を顕し、芸術家を覆い隠すことが芸術の目標である。
(中略)
芸術家たるものは道徳的な共感をしない。
芸術家の道徳的共感はゆるすべからざるスタイル上のマンネリズムである。

芸術家たるものはけっして病的でない。芸術家はあらゆることを表現しうるのだ。
思想も言語も芸術家にとっては芸術の道具にほかならぬ。
善も悪も芸術家にとっては芸術の素材にすぎぬ。
(中略)
すべて芸術は表面的であり、しかも象徴的である。
表面より下に至らんとするものは、危険を覚悟すべきである。
象徴を読みとろうとするものは、危険を覚悟すべきである。
(中略)
すべて芸術はまったく無用である。

『ドリアン・グレイの肖像』新潮社/福田恆存訳/8~10P

『ドリアン・グレイの肖像』において作者が伝えたかったことは、この序文につきるのではないかと私は思います。

芸術家は美の創造者であるけれども、芸術の象徴を読みとろうとする者は危険も覚悟せよ。

美しい花には棘があると言いますが、美しい芸術もまた然りということでしょうか。

若く美しいドリアンは、享楽的な生活の末に悲劇的な最期を遂げるのです。

当時の社会がこの作品を「非道徳的」だと非難したようですが、最終的にドリアンは死んでいくのです。

私は最後にドリアンが罪悪の報いを受けたように感じたので、非道徳的であるという批判は当たらないようにも思いました。

しかし保守的な社会において、この作品の衝撃が大きかったのは事実で、ワイルド自身も派手な生活をしていたらしいことからも、こうした批判に晒されたのだろうと思います。

いつの世も新しい価値観を受け入れるのには時間がかかるものでしょう。

ワイルドにとって『ドリアン・グレイの肖像』は保守社会への一種の挑戦だったのかもしれません。

<作者ワイルドと同性愛について>

『ドリアン・グレイの肖像』は三人の男性が主軸になっています。

一人は主人公ドリアン・グレイ。若く美しい青年です。

一人はヘンリー・ウォットン卿。ドリアンを享楽的な生活へ誘う貴族です。

一人はバジル・ホールウォード。ドリアンをモデルに肖像画を描いた画家です。

この三人は同性愛の関係であったと言われています。

しかし先に述べたように、当時は保守的価値観の強い時代で、同性愛も罪に問われる時代でした。

ですので『ドリアン・グレイの肖像』の中で直接的な表現はありません。

そして、作者オスカー・ワイルドも同性愛者であったと言われています。

一度は結婚し、二児をもうけますが、その後ロバート・ロスという人物と親密になったことがきっかけのようです。

その後に『ドリアン・グレイの肖像』が発表され、作品に夢中になったアルフレッド・ダグラス卿とも知り合い、親密になりますが、彼の父親から同性愛の罪で告訴されます。

ワイルドは裁判ののち投獄され服役、その後はイギリスにいることもできずにパリへと渡り、若くして病で亡くなりました。

『ドリアン・グレイの肖像』を同性愛小説であると断言はできませんが、そういった面もあるということを踏まえて読むと深みが増すかと思います。

『ドリアン・グレイの肖像』ー感想

アトリエの中には薔薇のゆたかな香りが満ち溢れ、かすかな夏の風が庭の木立を吹きぬけて、開けはなしの戸口から、ライラックの淀んだ匂いや、ピンク色に咲き誇るさんざしのひとしお細やかな香りを運んでくる。

『ドリアン・グレイの肖像』新潮社/福田恆存訳/11P

このような美しい描写から始まる『ドリアン・グレイの肖像』は、翻訳も様々あり、ストーリー展開も難解なところはなく比較的読みやすい小説です。

画家バジルが心酔する美青年ドリアンをモデルにした肖像画が、ドリアン自身の堕落を反映するように顔つきが醜悪になっていき、いよいよ良心の呵責に耐えかねたドリアンが肖像がを突き刺すところで終わります。

享楽的な生活を展開するだけあって、調度品や衣装なども豪華に美しく描写されているので、そのあたりも読みどころです。

また、肖像画に描かれた顔が変わっていくというファンタジー的な要素も、読者を引き込む要素になっていると思います。

視覚的な想像をしやすい点もあって、舞台化や映画化などもされているのでしょうし、登場人物もいわゆる「キャラが立っている」のでわかりやすいです。

個人的にはヘンリー卿の逆説的なセリフの応酬についていくのは大変でしたが。

堕落していくドリアン、ずっといい人のバジル、皮肉ばかりのヘンリー卿。

この三人を描いたワイルドという人は、本当に観察眼に優れていたのだろうと感心します。

ワイルドの思想や性格、同性愛のことも考えると、生まれた時代がもう少し後だったら、もっと楽に生きていけたのかもしれません。

しかしそれでは『ドリアン・グレイの肖像』は生まれていなかったかもしれません。

そんなことを思いながら、この作品についての執筆を終わります。

以上、『ドリアン・グレイの肖像』のあらすじ、解説、感想でした。

<参考文献>
ドリアン・グレイの肖像/オスカー・ワイルド・福田恆存訳/新潮社
オスカー・ワイルドの生涯 愛と美の殉教者/山田勝/NHKブックス

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mizue

文学部・古典専攻でしたが、趣味として読む小説は近現代が好きです。海外小説や児童文学なども漁っておりますが、好みとしては『読後に余韻が残るもの』だろうと最近思っています。ライターとしては「丁寧に、読みやすく」を目指していきたいです。