『皿屋敷』の紹介
『皿屋敷』は古典落語の演目の一つ。『お菊の皿』という題名で演じられることもあります。
歌舞伎、浄瑠璃、講談でも演じられている怪談話ですが、落語ではお菊さんがサゲに出てくる滑稽噺です。
元は播州姫路(兵庫県姫路市)が舞台の上方落語だと言われていますが、江戸の番町皿屋敷が播州皿屋敷、になったとも言われています。
ここでは、『皿屋敷』のあらすじ・解説・感想までをまとめました。
『皿屋敷』ーあらすじ
舞台は江戸時代の播州姫路。
姫路城城主に仕える家臣の一人に青山鉄山(あおやまてっさん)というお侍がいました。
青山鉄山には「お菊」という大変きれいな女中がいて、鉄山はお菊を自分の妾にしようとします。
しかしお菊から良い返事はもらえません。
そんなお菊に鉄山はだんだん憎らしさをつのらせていきます。青山家の家宝で、大変貴重な十枚揃いの皿がありました。
その皿を九枚お菊に預けます。一枚は鉄山が内緒で隠していました。
ある日のことお菊は「あの十枚揃いの皿を持ってくるように」と鉄山から言われ持っていきますが、持っていった皿は九枚しかありません。
一枚の皿は鉄山が持っていましたが、それを隠したまま皿が九枚しかない、とお菊を責めたてます。何回数えても九枚しかない家宝の皿。
鉄山はお菊に濡れ衣を着せ、井戸に吊るし折檻を加えます。そのままお菊は井戸に落ちて死んでしまいました。
その後、井戸からは毎晩お菊の幽霊が出てくるようになりました。
青山鉄山への恨みを込めて「いちま〜い、にま〜い、さんま〜い・・・九枚、やっぱり一枚足りない・・・」とお皿を数えます。
それを見た鉄山は気が触れて死んでしまいます。
お菊さんが死んだその井戸は「お菊の井戸」と言われるようになりました・・・。
その話をご隠居さんから聞いた若い衆は大盛り上がり。
早速、みんなで井戸を見に行くことにしましたが、ご隠居さんに「最後の、九枚、を聞いたら気が触れて死んでしまうぞ」と忠告されます。
それでは五、六枚の時に逃げればいいだろう、と怖いもの見たさで出かけます。
丑三つ時に井戸の周りで待っていると「いちま〜い、にま〜い・・・」とお菊さんの幽霊が出てきました。
若い衆は「出た〜!」と逃げだしましたが、お菊さんがあまりにもキレイだったため次の日も見に行くことに。
そのうち町中で「お菊さんの幽霊がきれい」という噂がたち、一週間ほどで見物人はなんと100人に。
そうなると井戸の周りには屋台や出店も出てまるでお祭り騒ぎです。毎日見物人が井戸の周りで押し合いへし合いしながら、
「もうそろそろ出てくるか?」
「あ、もう丑三つ時だ!逃げる準備しないと九枚まで聞いたら気が触れちまうぞ!」
「出た〜!それにしても噂通りの美人だなあ。」
「おい、何を感心してんだ!五枚だぞ!そろそろ逃げるぞ!」と見物人は興奮して大パニック。
お菊さんが皿を数えている間に、見物人は蜘蛛の子を散らすように逃げていきます。そんな日が続き、見物人はさらに増えていきました。
その日も丑三つ時に井戸から出てきて「いちま〜い、にま〜いゲホゲホ・・・」と咳をしながら数えるお菊さん。
「ほら数えだしたぞ、逃げないと!」
「あれ?お菊さん、数えながらゲホゲホ咳してるぞ。」
「そんな事どうでもいいから、どけよ。」
「前に人がいっぱいいて逃げられないんだよ!」
なんと見物人が多くなりすぎて逃げられない人も出てきました。
「気が触れちまうよ!もう八枚ゲホゲホ、って言ってるじゃねえか」
「あ、九枚って言った・・・あ〜!助けてくれ!」
「あれ?十枚?十一枚って言い出したぞ」
十二枚、十三枚と数えながら咳が止まらないお菊さん。
現物人がお菊さんに聞いてみることにしました。
「あの、お菊さん。あなた青山鉄山に十枚セットのお皿をわざと一枚隠されて、その濡れ衣着せられて殺されたんですよね?だから数えるのは九枚までだと思うんですけど、なんで今日は十八枚まで数えるんです?」
「うるさいわねえ、風邪気味で明日休みたいからいつもの二倍数えたんだよ」
『皿屋敷』ー概要
主人公 | お菊の幽霊 |
重要人物 | 青山鉄山 見物人達 |
主な舞台 | 江戸時代の播州姫路(兵庫県姫路市) |
その他の演芸 | 歌舞伎・浄瑠璃・講談 |
『皿屋敷』の面白さ
本当に本当に怖い怪談話ですが・・・
この皿屋敷のお話、落語以外の歌舞伎や浄瑠璃、講談では本当に怖いお話です。
落語ではさらっと流していますが、青山鉄山のお菊さんに対する憎しみやドロドロした感情が描かれ、お菊さんが井戸に落とされる時の苦しみ、悲しみもの描写も鮮やかです。
しかし落語ではその部分は説明程度、もしくは全く演じられないこともあります。
明日休むんだよ
毎晩多くの見物人がごった返すようになった「お菊の井戸」。
出店や屋台も出た、と言いますから、まるでお祭りか遊園地のお化け屋敷ですね。
青山鉄山を恨めしく思い「いちま〜い、にま〜い・・・やっぱり一枚足りない・・・」皿を数えながら幽霊になって出てきたお菊さん。
家宝のお皿を一枚なくした、という濡れ衣を着せられて、しかも殺されてしまうなんてどれだけ青山鉄山を恨んでも恨みきれません。
その思いがこの世に残り、成仏できず毎晩幽霊として出てきていました。
しかし、だんだん見物人が増えてくるようになるとお菊さんも嬉しくなったようで、毎晩張り切ってお皿を数えるようになります。
今まで青山鉄山憎しとお皿を数えていましたが、だんだん楽しくなってきたものの、疲れていたのかもしれません。
ある日のお菊さんは「ゲホゲホ」と咳をしながらお皿を数えていました。
そして咳をしながら九枚を超えてもお皿を数えます。
不思議に思った見物人が「今日は十八枚数えてますけど」と聞いた所「うるさいわねえ、風邪気味で明日休みたいから二倍数えたんだよ」と答えます。
明日休むにしても、二倍の18枚数える?それに青山鉄山に殺されて可愛そうな幽霊のお菊さんがそこまで責任感持って、見物人のためにお皿数えなくてもいいよね?しかも幽霊なのに風邪ひくの?と突っ込みたくなるところがこの噺の面白さです。
『皿屋敷』ー感想
歌舞伎でも夏から秋にかけてよく演じられる「播州皿屋敷」。
片岡愛之助さんが青山鉄山、片岡孝太郎さんがお菊の播州皿屋敷の舞台を見たことがありますが、お菊さんの怨念をありありと演じられていました。
青山鉄山への恨み、生への執着・・・。初めから最後まで笑えるシーンはありません。
「富嶽三十六景」の浮世絵で有名な葛飾北斎は、怪談「百物語」をテーマに幽霊や妖怪の絵を描いています。
残念ながら現存する絵は5枚のみですが、その中には井戸から出てくるお菊さんの幽霊の絵もあり、おどろおどろしく描かれています。
江戸時代からこの皿屋敷の噺や類似した噺は全国各地にあり、非常に有名な怪談だったようです。
その怪談をもとに落語にしたのがこの噺です。
滑稽噺なのでアレンジも多様で、噺家さんによって雰囲気が変わります。
噺の途中の音楽「鳴り物」は上方落語特有ですが、江戸落語でもお囃子さんに三味線を弾いてもらい、お菊さんが歌いながらマイケル・ジャクソンのようにムーンウォークでダンスをはじめる、というアレンジをされた噺家さんもいます。
「(幽霊で)足がないからムーンウォークができないんだよ」という洒落がきいていました。
噺家さんによって雰囲気の異なる「皿屋敷」。
ぜひ聴き比べてくださいね。