落語『らくだ』あらすじをサッと紹介!もとは「駱駝の葬礼」

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落語『らくだ』あらすじをサッと紹介!もとは「駱駝の葬礼」

『らくだ』の紹介

『らくだ』は古典落語の名作の一つです。

ストーリーは理解しやすく、登場人物は個性的かつ憎めないキャラクターばかりで、飽きさせない展開です。

全編は1時間にも及ぶ大作ながら、演者によっては後半をカットするなど、アレンジを変えられるところも大きな魅力です。

もとは「駱駝の葬礼」というタイトルの上方落語でしたが、明治時代、三代目柳家小さんが大阪での修業で四代目桂文吾から習得し、その後、江戸風に練り上げました。

また、作家・岡鬼太郎により歌舞伎化され、昭和初期の初演から現在も人気の演目となっています。

「らくだ」とは砂漠にいる動物のラクダではなく、登場人物のあだ名です。

江戸後期、見せ物として江戸にやって来た動物のらくだを見た人々は、大きな体でのっそり動く、役に立つかどうかわからない動物ととらえたようです。

つまり、このあだ名は、大柄な人や動作がおっとりした人を呼ぶ悪口といえます。

ここでは、『らくだ』のあらすじ・解説・感想までをまとめました。

『らくだ』―あらすじ

大柄で乱暴で毛虫のような嫌われ者、通称「らくだ」がフグの毒にあたって死んだ。

それを、訪ねてきた兄貴分が見つけるところから始まる。

弔いを出そうにも先立つものがない。

兄貴分は、たまたま通りかかった屑屋を呼び止め、らくだの部屋にあるもの売ってお金を作ろうとする。

しかし屑屋、既にこの家からはあらゆるものを買い取らされたので、もう何も残っていないと言う。

そこで、兄貴分は、長屋の住人から香典を集めることを思いつく。

遣いに行けと言われる屑屋。

嫌がる屑屋から商売道具のザルと秤を取り上げ、無理やり月番のところへ行かせる。

らくだの急死を聞いた月番は、横暴で乱暴ならくだが死んだと大喜び。

これまで迷惑をかけられてきたのだから香典なんか出さないと言うが、屑屋が困っているのを知り、らくだのためなら腹も立つけど、屑屋に迷惑をかけるわけにはいかないと香典を出すことを約束する。

屑屋は兄貴分に報告し、商売に戻ろうとするが、次に大家のところへ行けと言う。

大家にらくだが死んだと告げると、こちらも大喜び。

そこで屑屋は、兄貴分の伝言を伝える

「――今夜は通夜のまねごとをする。大家といえば親同然、店子といえば子も同様。子が死んだと思って、良い酒、肴、めしを持って来てもらいたい――」

しかし大家は、一度も店賃を払っていないらくだには何も出さないと、きっぱり断る。

断られたことを報告すると、兄貴分は、こう言えという。

「死骸のやり場に困っております。こちらに死人(しびと)を担ぎこんで、かんかんのうを踊らせてご覧に入れます。」

再び大家のところに行かされた屑屋、兄貴分が恐いから、大家さんのためにも酒を出した方がよいと助言するが、当然大家はお断り。

兄貴分の伝言を言うと、退屈しているから死人の踊りを見てみたい、踊らせろ、と言ってのける。

屑屋の報告を聞いた兄貴分は、屑屋の背に、大きならくだの死骸を乗せ、大家の家へ行く。

屑屋は泣く泣く、扉を開けてかんかんのうを大声で歌う。兄貴分は後ろかららくだの手を動かし、踊っているように見せる。

大家は大慌てで謝り、酒肴を持っていくことを約束する。

これで仕事に戻れると思った屑屋だが、今度は八百屋に遣き、棺桶代わりに菜漬けの樽をもらってこいと言いつけられる。

八百屋もらくだが死んで大喜び。

当然、樽は貸してくれない。

そこで屑屋がかんかんのうの話をすると、八百屋は客寄せにもなるからやってみろと言う。

しかし、大家のところでさっき派手に踊ったと聞いて、青ざめて、樽を差し出す。

戻ると、大家からの酒肴が届いていた。

屑屋は一刻も早く仕事に戻ろうとするが、死人を担いだのだから酒で身体を浄めていけと言われる。

駆けつけ三杯と言われて飲んだ屑屋、様子が一変する。

兄貴分にもう仕事に戻っていいと言われても、「もう一杯つげよ!」と目がすわってきた。

気が大きくなった屑屋は、世の中にはお金持ちでも面倒見の悪い人はたくさんいるのに、兄貴分はお金もないのにここまで世話できるのはすごいと褒めたり、目つきが悪いと暴言を吐いたり。

酒が足りないのなら酒屋にかんかんのう踊ると言ってでもらってこい、と言う始末。

すっかり立場が逆転してしまう。

死人をこのままにしておくのは心持が悪いから、火葬場の知り合いのところへ持っていこうと屑屋が言う。

二人で差担いでかついで行くが、途中で転んでしまう。

火葬場の知り合いと会い、お近づきの印にと三人で飲み始めたが、いざ火葬しようとすると、桶の中にらくだがいない。

どこかで落としたのかと来た道を探しに戻り、道端で寝ていた酔った坊主を、らくだと間違えて担いで戻った。

焼き場で火をつけたところ、坊主が目を覚まし、サゲとなる。

「あちち!ここはどこだ」

「火屋(ひや)だ」

「ヒヤ(冷酒)でいいから、もう一杯くれ」

『らくだ』―概要

主な登場人物 らくだ、らくだの兄貴分、屑屋、月番、大家、八百屋、火葬場の知り合い、坊主
主な舞台 江戸時代の長屋

『らくだ』―解説(考察)

『らくだ』の面白さ

・らくだの兄貴分の横暴さに振り回される、気の弱い屑屋の様子

横暴な兄貴分の言動を見て、死んだらくだもこれくらい横暴だったのだろう、長屋の人たちもさぞ困っただろうと、容易に想像できます。

・死人にかんかんのうを踊らせる

さすがらくだの兄貴分、長屋の人たちから金や酒を集めるため、一般庶民には思いもつかない方法を思いつきます。

・屑屋が酒を飲んで豹変する

あんなに気弱だった屑屋が、酒を飲まされると怒鳴りだし、偉そうにふるまっていた兄貴分と立場逆転する様子は、とてもスカッとします。

『らくだ』の見どころ・聴きどころ

・登場人物が多い

メインキャラクターの兄貴分と、屑屋の対比、また、人のよさそうな長屋の人たちの性格などが、演者の口調でよくわかります。

長屋の人たちなど演者がアレンジしやすく、演者によってそれぞれの「らくご」があるのも魅力です。

・屑屋が、嫌々らくだを担がされるが、元気いっぱい歌う

死人の踊りなんて見たことないし、見たくもないのですが、聴衆は、その不気味で不思議な光景を、演者の噺で面白く想像できます。

屑屋がヤケクソに歌う姿に笑いが起こります。人間、追い詰められると、このような感じになってしまうのかもとしれません。

・屑屋が酒を飲んで豹変する

豹変ぶりは、演者の腕の見せどころでもあります。

・前半のみでも十分聴きごたえがある

全編を演じると1時間に及ぶ大作ですが、屑屋が酔っぱらうところまでのみでも、十分面白い話です。

『らくだ』の小ネタ・現代では理解しにくい点

  • 屑屋(くずや): 江戸時代の廃品回収業者。
  • 月番(つきばん):長屋を借りている人たちが、月交代で掃除や祝儀・不祝儀の集金などを行う担当者のこと。
  • 店賃(たなちん):家賃。
  • かんかんのう:江戸時代から明治にかけて民衆の間で唱われていた、中国から伝わった歌。子供も歌っていたという。別名「唐人踊(とうじんおどり)」「看々踊(かんかんおどり)」。

『らくだ』―感想

死人の悪口を言ったり、死人をひっぱり出して踊らせたり、常識では冒涜だと思われることかも知れませんが、『らくだ』はそれを軽々と超えた面白さがあります。

屑屋がらくだを担がされたところでは、聴衆である自分の背中にも冷たいものを感じます。

また、かんかんのうを見せられ驚愕する大家、次々に酒を飲まされる屑屋、間違えて火をつけられる坊主など、聴衆である自分も一緒に喜怒哀楽を体験するような感覚で、大いに楽しめます。

結局のところ、弟分の面倒をみようとする横暴な兄貴分、人から頼まれると断れない気弱な屑屋など、人情のある世の中を描いていて、その関係が面白いなあと思います。

現実逃避してゲラゲラ笑いたい時には、この落語はおすすめです。

以上、『らくご』のあらすじ・解説・感想でした。

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Natsuko

初めてのナマで落語を聴いたのは、幼稚園児の頃、近くの温泉施設の大広間での笑福亭仁鶴さんでした。噺をどれくらい理解したかは不明ですが、母の笑い声につられて私も笑った記憶があります。それ以来、落語は楽しいもの、という固定観念で生きています(笑) 好きな落語家は、立川生志、立川志の輔、笑福亭仁鶴などなど。滑稽噺、人情噺、怪談噺とジャンルは問わず、古典のほうが好きです。 私にとって落語の魅力とは、たった一人の噺家が、瞬時にあらゆる人物になりきり、私たち聴衆をあらゆる場面に連れて行ってくれることです。どんなGCをも超越すると思います。現在フリーアナウンサーとしても仕事するなかで、番組等で初心者の方に落語を説明する時には、「落語はイリュージョン」と紹介したりしています。