落語『大山詣り』あらすじ&サゲを解説!江戸時代から演じられている大ネタ

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落語『大山詣り』あらすじ&サゲを解説!江戸時代から演じられている大ネタ

『大山詣り』の紹介

「大山詣り」は落語の名作の一つ。

狂言の演目(「六人僧」など)にヒントを得て作られた落語で、江戸時代から演じられている滑稽噺です。

大山詣りは江戸の庶民にとって年中行事のように大切なイベントでした。

特に、大山に詣でた後の観光や宴会が皆のお目当て。

こういった時には気持ちが緩んで羽目を外したくなるもの。

ついに起こってほしくない騒動が勃発し、そこからドタバタの悲喜劇が繰り広げられます。

「大山詣り」は長い年月をかけて多くの演者によって練りこまれてきた形跡があり、登場人物が多く場面が次々と移りかわるなど内容が豊富な大ネタです。

ここでは、「大山詣り」のあらすじ・解説・感想までをまとめました。

『大山詣り』―あらすじ

江戸からお詣りに行く山で一番人気があったのが、相模の国(神奈川県)の大山。

夏が来て町内の連中が今年も大山詣りをすることになった。

先達さん(お詣りの引率者)は、酒に酔うと喧嘩を始める癖のある熊さんのことが気がかりだった。

熊さんは今年も大山に一緒に行くと言い張って聞かない、どうしようか?

そこで、先達さんは全員を集めて「腹を立てた者には二分金(現在の約五万円)を支払わせる、暴れた者は丸坊主にする」という罰則を取り決めた。

いざ大山へ。

みんなでワイワイ言いながら三軒茶屋の辺り、厚木、伊勢原を経てお山に到着。

好天に恵まれ何のもめ事もなく山頂でのお詣りを済ませて、帰路、神奈川の宿に一泊する。ついに恐れていたことが起こった。

酒の入った熊さんが暴れ始めた。

風呂に入ると何回も放屁して、強烈な臭いに仲間の二人は失神寸前。

熊さんはさらにこの二人を殴る蹴るの暴力に及んだ。

先達は熊さんの乱行のことを穏便に収めようとするが、殴られた二人は怒りがとまらない。

「罰則を決めたのだから、暴力を振るった熊さんは丸坊主にしなければならない」というのが二人の主張。

二階で大いびきをかいて寝込んだ熊さんに二人が忍び寄り、熊さんの髪を切り落としてしまった。

翌朝は早立ちで、朝食を済ませると一行は出発した。

泥酔状態で眠りこけたままの熊さんには誰も気がつかない。

昼近くになって女中に起こされて自分の頭に手をやるとツルツルになっている。熊さん怒り心頭。

「断りもなく眠っている間に丸坊主にするとは! そのうえ置き去りにするとは! いくらなんでもひど過ぎる!」

「あいつら、ただじゃおかねえぞ!」 復讐の気持ち満々の熊さんは、早駕籠を手配して急いで江戸へ戻った。

道中を歩いている仲間たちを追い抜き、一目散に自分の長屋へ駈け込んだ。

大山へ一緒に詣でた仲間のかみさんたちを集めた熊さん、悲痛な面持ちで「お山の帰りに金沢八景を見物した。そのあと米ヶ浜まで行こうと舟に乗ったが、嵐になって舟は転覆。自分一人だけ浜に打ち上げられて助かった。おまえたちの旦那はみな波に呑まれて死んでしまった」と作り話をする。

かみさん連中はウワッと一斉に泣きだしたが、先達のかみさんだけは平然としている。

「熊さんは嘘つきで有名。『ほら熊』、『チャラ熊』って呼ばれている。こんな嘘つき男の言うことなんか信じちゃあいけないよ」と言い放った。

熊さん、そこまで言うならと頭に被っていた手拭を取った。

見るとつるんつるんの坊主頭だ。

「これが証拠! 死んだ連中への供養のため頭を丸め坊主になったんだ」

熊さんがしみじみ言うと、さすがに先達のかみさんも、「あんなに見栄っ張りの熊さんが丸坊主になった。今の話は本当だ」と、ワアワア泣き崩れ、それにつられて長屋のかみさんたちも大声で泣き始めた。

ここまでは大成功と思った熊さん、「頭を丸め尼さんになって夫の菩提を弔うのが一番」と説き、とうとうかみさんたちを一人残らずクリクリ坊主にしてしまった。

さて、のんびり帰ってきた旦那連中、熊さんの長屋を覗くと自分たちの女房が尼さんになって熊さんを取り囲んで念仏を唱えている。

熊さんにしてやられたと知った連中は、腹が立って押し入ろうとするけれども、先達さんだけはニコニコ笑って皆を諭した。

「よ~く考えてごらんよ。晴天に恵まれ大山詣りが無事済んだ。家に帰ってみれば、みなさん、お毛が(怪我)なくっておめでたい」

『大山詣り』―概要

主人公 熊さん
重要人物 先達さん、坊主頭にされたかみさんたち
主な舞台 江戸時代
時代背景 髷は命から二番目に大事なもの、髷を落とすってえのは人間やめろっていうのも同じものと言われていた。
出典 柳家小三治の落語1(小学館文庫)

『大山詣り』―解説(考察)

面白いところ

熊さんのおなら

熊さんが湯船の中で放ったおなら(屁)が、十分笑いのネタになっています。

(熊さんよりも先に湯に入っていた男の話し)
風呂場で歌うだけならいいんだけれども、熊の野郎、出もしねえ声を無理に張り上げようとするもんだから、「へええ~!」って言った途端に、一発やりやがったんだ。湯の中だからたまんないよ。プクプクプクッと上がって来て、俺の鼻先でパチンと弾けたんだ。間が悪いことに、こっちが息を吸い込むときだったから、残らず吸っちゃったんだよ。これがまあ、臭いのなんのって。

熊さんの巧妙な語りにだまされるおかみさんたち

熊さんは作り話をしてから論より証拠と自分の坊主頭を見せて、その話しが本当だとかみさんたちを信用させました。

だまされるおかみさんたちは純情そのもの。かわいそうですが同時に可笑しくもあります。

(熊さんとおかみさんたちの会話)
「おめえたちの亭主は何年待っても、もう帰っちゃあこねえよ」泣き崩れるかみさんたち。

「おまえら、みどりの黒髪を根元からぷっつりと切って頭を丸めて尼さんになって、朝晩念仏をあげて夫の菩提を弔ってごらん。仏がどれだけ喜ぶか知れねえよ」

「じゃあ、熊さん、すまないけど、あたしをお坊さんにしてちょうだい」

「ああ、いいとも」

みんなが見ている前でもって髪の毛剃って坊さんを一人こしらえちゃった。

「じゃあ、あたしも」、「あたしも、あたしも、あたしも・・・」かみさんたち、早く剃ってほしいと言わんばかりに、み~んな頭を突き出した。

こうして、かみさんたちは熊さんのうそを信じて丸坊主にされてしまいました。

見どころ

酔いつぶれた熊さん丸坊主にされる

宿の風呂場で熊さんに殴られボコボコにされた仲間の二人は、熊のやつを丸坊主にすると息巻きました。

先達は明日にはお江戸に帰るんだから我慢してくれと言うばかり。

こうなったら俺たちが実力行使するしかないと思った二人は、夜の宴会を途中で抜け出して、二階で泥酔状態になって寝込んでいる熊さんの頭をクリクリ坊主にしてしまいました。

さらに、翌朝、熊さんがまだ眠りこけているのを見たこの二人は、熊さんの膳をごまかし、一行が早立ちで出発する際も熊さんがいないのに知らん顔。熊さんは宿に置き去りにされてしまいました。

熊さんの復讐劇

一行が出立したあとで、宿の女中がぐっすり眠っている熊さんを発見しました。

本人に断りもなく髷を剃り落とし、さらに置き去りにするとは・・・奴らは許せない、復讐してやる! との思いで、急いで江戸に舞い戻った熊さん。

仲間のかみさんたち全員を集めて「おまらの亭主はみんな死んだ、俺はその菩提を弔うため坊主になった」とホラ話をして、亡き夫のことを想えばおまえたちは尼さんになったほうがよいと勧めます。

こうして、皆ツルツルの坊主頭にさせられてしまいました。

ほっとさせてくれるサゲ

何の罪もないかみさん連中を丸坊主にするというのは、実に極悪非道な復讐です。

そんな熊さんの悪行に怒り狂った男どもが熊さんの家に押しかけるという一触即発の状態を笑顔で丸く収めてしまった先達さん、ただ者ではありません。

すぐあとに続くサゲ「お毛が(怪我)なくておめでたい」は、平凡なダジャレだけれども、なぜかほっとした気持ちにさせてくれます。

現代では理解しにくい点&小ネタ

大山詣りの流行

江戸から近く、関所を通ることもなく、江の島や金沢八景に立ち寄ることができるといういいことずくめの大山詣りは、平和が続いた江戸時代に隆盛を極めました。

なにしろ、江戸の人口が百万人という頃に大山には年間二十万人が訪れたといいますから、すごいことです。

髷がとても大事だった江戸時代

江戸っ子が髷を大切にし、坊主頭は世捨て人か罪人、または死人とみなされていたという時代でした。(出典:文化デジタルライブラリー)

ですから、坊主頭になるというのは今日の私たちには想像もできない大変な出来事だったのです。

小ネタ

かみさんたちの初々しい坊主頭が冬瓜のように見える

剃りたてでまだ青みがかっているかみさんたちの坊主頭。

これがずらっと並んでいるのを見た先達さんは大喜びです。

「まるで冬瓜舟が着いたようだなあ」

確かに、冬瓜がたくさん並んでいると坊主頭の群れのように見えてきます。

『大山詣り』―感想

大山詣りを聞いて小さな旅に心ひかれました

落語の「大山詣り」に親しんでいるうちに、大山の魅力っていうのは聖と俗がうまく調和していることかな、と思うようになりました。

私のような凡人にとっては、聖が過ぎると近寄り難くなるし、あまりに俗っぽいと飽きが来てしまいます。

大山は山岳信仰の歴史が生きていて今も聖なる地です。

一方、大山とその周辺には東海道など観光地や旅の宿といった俗世間ではありながらも非日常を楽しめる場所が広がっています。

人口の多い東京から近いのも魅力的です。

大山詣りが賑わいをみせた江戸時代に思いをはせて、大山の辺りに旅に出てみようかという気持ちになりました。

以上、「大山詣り」について述べました。

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藤太郎

落語鑑賞歴は20年以上。人生の奥深さがギュッと詰まっている落語の世界にハマりました。落語の特に好きなジャンルは滑稽噺、夫婦噺。ライターとしては、読者にわかりすくお伝えすることを先ず心がけています。落語に近い話芸の講談についても、趣味でネタ集め・台本作り・発表の活動を展開中。もともとは理系人間で、無線通信やIT関係の仕事に長年従事してきました。今は進化が著しいAIの技術・応用に関心を寄せています。