江戸川乱歩『怪人二十面相』個性的なキャラクターから『名探偵コナン』との関係性まで!

『怪人二十面相』について

『怪人二十面相』は、江戸川乱歩が書いた少年向け探偵小説「少年探偵団」シリーズの第1話です。

次々に高価な美術品を狙う怪盗「二十面相」。

彼の企みを阻止すべく奮闘する名探偵・明智小五郎と、その助手の少年小林君による推理対決が書かれた小説です。

ここではそんな『怪人二十面相』のあらすじ・解説・感想をまとめました。

『怪人二十面相』のあらすじ

東京中を騒がせている怪人「二十面相」。

彼は変装が得意な盗賊で、非常に高価で美しい宝石や美術品のみを狙っていました。

狙いを定めると、「いつ獲物を頂戴に参上するか」を明記した予告状を必ず送り、盗みはしても血が苦手なため、人を殺傷することはありません。

ある日、大物実業家の羽柴壮太郎が所有するダイヤモンドを狙う予告状が、二十面相から届きます。

厳重な対策が施されますが、二十面相得意の変装で侵入を許してしまいます。

結局、抵抗虚しく宝石は奪われ、さらに息子の壮二君を人質に、ほかの家宝まで要求されます。 

そこで、探偵明智小五郎の助手である小林少年が、別の依頼のため国外にいる明智のかわりに奮闘します。

無事に人質と奪われたダイヤモンドの両方を取り返しますが、二十面相は逃げ延びてしまいます。

今までは個人の美術品を狙っていた二十面相が、ついに国が保有する帝国博物館の美術品を狙う予告状を出します。

世間を騒がせている中、日本に帰国した名探偵明智小五郎は、二十面相の企みを阻止しようとします。

対する、怪盗二十面相は計画を邪魔する探偵を捕らえようと動き出します。

こうして正義と悪の2人の天才の対決が始まるのです。

知恵と知恵がぶつかり合い、どちらも一歩も譲らぬ頭脳戦の果てに、最後は明智小五郎の作戦で見事に二十面相の鼻を明かします。

小林少年率いる少年探偵団の尽力により、二十面相を捕まえることができたのでした。

『怪人二十面相』ー概要

物語の主人公 ナレーション(第三者)視点で物語は進んでいきます。
物語の重要人物 私立探偵:明智小五郎
探偵の助手:小林芳雄
怪盗:二十面相
主な舞台 東京
時代背景 昭和時代
作者 江戸川乱歩

 

『怪人二十面相』の解説

 第三者視点で語られるストーリー

『怪人二十面相』は、特定の主人公目線ではなく、ナレーションのような第三者視点で物語を進行する群像劇の形で書かれています。

登場回数の多い、

  • 二十面相
  • 明智小五郎
  • 小林少年

の3人が、メインの登場人物です。

読者諸君への語りかけ

このナレーター(第三者)が一体誰なのかは、特に明言されていません。

ことあるごとに「読者諸君!」と言って、読者に話しかけてきます。

アア、読者諸君、これが一体本当のことでしょうか。盗賊が探偵を出迎えるなんて、探偵の方でも、とっくにそれと知りながら、賊の誘(さそい)にのり、賊のお茶をよばれるなんて、そんな馬鹿馬鹿しいことが起り得るものでしょうか。

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

満洲から帰国したばかりの明智を東京駅で待っていたのは、外務省の辻野という男に変装した二十面相でした。

明智が、変装を見抜いた上で二十面相の誘いにのったシーンを、ナレーションで読者に説明してくれているのです。

このように、

  • 物語の補足説明
  • 重要な場面を強調したいとき
  • 読者に推理をして欲しい場面

などで、この「読者諸君」の呼びかけを使用しています。

そんなナレーションのような存在が、たまに読者に話しかけながら、怪盗と探偵の群像劇を語るのです。

読んでいて斬新ですが、違和感は全くありません。

あくまで怪盗と探偵の物語がメインということを忘れさせないように、バランスの良い配分や構成で書かれています。

個性的なキャラクター

悪役の魅力

対決モノでは、悪役が魅力的であればあるほど、それを倒すヒーローも活きてきます。

格下で簡単に倒せる敵は、あまり印象に残らないですよね。

難易度が高くて、果たして勝つことが本当に出来るのかという相手との対決の方が、はるかにワクワクします。

日本一の名探偵と呼ばれる明智小五郎に対抗するのであれば、悪役は明智と同等か、それ以上に頭が回ってなければなりません。もしくは、他の部分で優っている必要があります。

怪盗二十面相は頭も良く、かつ変装の天才で、さらに仲間が大勢いて、演技やお金を使って人を動かすのも得意です。

エレベーター・ボーイは、二十面相の部下のために、百円札で買収されていたのでした。

(※筆者注:百円札=当時の価値では約6万円程度)

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

二十面相が警察に囲まれたホテルから逃げる際に、明智をエレベーター内に閉じ込めて足止めさせて、階段から逃げようとする場面です。

事前にエレベーター・ボーイを買収し、明智の乗ったエレベーターを止めるように指示していたのですね。

このように用意周到で、倒すのは不可能にも思える悪役ですが、二十面相にも欠点はあります。

魅力としての「欠点」

彼は新たな仲間をすぐに受け入れるため、部下が多く、複数のアジトも所有していました。

新たな部下を迎える時も、出自を問わず受け入れる懐の大きさがあります。

しかし、そのせいで浮浪者に扮した明智を易々と仲間に引き入れた挙句、その正体に気づくことはありませんでした。

また、怪人二十面相は盗んだ後もギリギリまで逃げないで変装したままその場に暫く留まります。

理由は、美術品を奪った後の、警察や被害者の驚く顔を見たいからです。

ラストのシーンでも、二十面相がすぐに逃げなかったせいで、正体に気づいた明智に始終手を掴まれて逃げる機会を失い、そのまま警察に捕まります。

自らの変装の腕を過信するあまり、爪の甘さが所々に出てしまうのは、最早愛嬌にすら感じられます。

盗みはしますが、人を殺傷しないので残忍さも少なく、まさに少年向けの悪役です。

ヒーローのキャラクター

名探偵明智小五郎は、常に全身黒づくめの格好をしていて、敵を前にしても驚かず、クールに微笑みながら行動します。

推理に自信があるからこそ、いつでも冷静で穏やかに対処できるのでしょう。

対して、怪人二十面相は、あらゆる人物に変装するため素顔はわからず、自分の目論見が上手くいくとニヤニヤ笑いながら自分の正体を明かします。

クールな明智と比べると、二十面相は感情をすぐに顔に出していて対照的な2人です。

小林君の活躍

助手の小林君は、名探偵明智小五郎と数々の難事件を経験してきたため、無茶で危険な状況でも勇気を持ち果敢に挑む強さを持った少年です。

時には子供らしく、時には大人顔負けの落ち着いた話し方を使い分けて交渉を行う機転の良さがあります。

満洲に行っている明智小五郎に来た依頼を代わりに受けるため、羽柴邸を訪ねた小林君。

彼は自分のことを、依頼人の息子である「壮二君の友達」だと嘘をつきます。

この嘘で、壮二君の不在を確認し、さらに父さんからことづけがあると嘘をついて依頼人と話をします。

「今、君は、壮二の友達だっていったそうですね。どうして壮二の名を知っていました」
「それ位のことが分からないでは、探偵の仕事は出来ません。実業雑誌にあなたの御家族のことが出ていたのを、切抜帳で調べてきたのです。電話で人の一命にかかわるというお話があったので、早苗さんか、壮二君か、どちらかが行方不明にでもなったのではないかと想像して来ました。どうやら、その想像が当ったようですね。それから、この事件には、例の二十面相の賊が、関係しているのではありませんか」
 小林少年は実に小気味よく口をききます。

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

子供だからと追い返されないように、嘘を使って近づき自分の推理力を依頼人本人に見せつけて、見事に信用を得ます。

また、二十面相のアジトの地下に閉じ込められるというピンチの時でも怯まずに、脱出するために道具を使い、策を練り、実行します。

小林少年は泣きもしなければ、絶望もしませんでした。彼は健気にも、まだ二十面相に負けたとは思っていなかったのです。
やっと腰の痛が薄らぐと、少年が先ず最初にしたことは、変装の破れ布の下に隠して、肩から下げていた小さなズックの鞄に、ソッと触ってみることでした。

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

少年の小林君が推理して活躍したり、小学生の壮二君が罠を仕掛けて二十面相を引っ掛けたりと、幼い子供の柔軟な発想が役に立つ場面が多く、少年向けとして書かれていることが分かります。

キャラクターの見せ場

3人のキャラクターも素晴らしいですが、『怪人二十面相』では、そのうえそれぞれのキャラクターの見せ場が丁寧に描かれています。

怪人は全編敵として現れ、小林君は羽柴邸の事件で活躍し、明智小五郎も終盤からラストまで見せ場を持っています。

小林君は羽柴邸の事件の際、狙われた仏像に変装して二十面相を出し抜きます。

明智小五郎も最後、別人に変装して二十面相を騙したことで勝負が決まりました。

変装を得意とする二十面相が、他人の変装を見破るのは下手で、逆に騙されて窮地に陥る構成は、間抜けさが演出されていて面白いところです。

読者を飽きさせない、続きを読ませるテクニック

この作品を通して言えるのが、無駄を省いた適切な長さです。

必要最低限のわかりやすい心理描写のみ書いていて、話の構成も「問題⇨解決⇨問題⇨解決」と、テンポよく進んでいきます。

伏線を即回収

伏線も読者が忘れないうちに、すぐに回収してくれます。

例えば、二十面相を阻むために飼った犬が、二十面相の逃走時にいなくなってしまう描写をした数ページ後には、その真相を明かしています。

ただ妙に思われたのは、折角買入れた猛犬のジョンが、この騒に姿を現さないことでした。もしジョンが加勢してくれたら、万一にも賊を取り逃がすようなことはなかったでしょうに。

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

「ここの家では、賊に備える為に、ジョンという犬を飼っていたのですが、それが昨夜のうちに毒死していました。」

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

また、読者が疑問に思うところもナレーションが都度拾って説明してくれます。

今の今まで、この建物が一体どこにあるのか、少しも見当がつかなかったのですが、窓を覗いたお陰で、その位置がハッキリと分かったことです。
読者諸君は、ただ窓を覗いただけで、位置が分かるなんて変だとおっしゃるかも知れません。でも、それが分かったのです。

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

小林君が二十面相のアジトの地下に閉じ込められ、脱出を試みる最中、窓の外を見て場所を特定する場面です。

この後、なぜ特定できたかをナレーションが説明しています。

こうした丁寧なナレーションのおかげで、まったくモヤモヤせずに読み進めることができるのも、『怪人二十面相』の魅力です。

引き際で惹きつけ、続きを読ませる一文

シリーズ物の作品は、1話が終わると次の話が存在します。

そのため、1話が終わるごとに引き際で、次の話が気になるような展開や次回予告を入れます。

次が見たいと思ってもらうことが、長編のシリーズ作品では重要になってくるのです。

もちろん『怪人二十面相』でも、次の場面に移る際に必ず、読者に次は何が起きるのか?と興味を持ってもらえるような一文を挟んできます。

 しかし、読者諸君は御記憶でしょう。賊の飛降りた窓というのは、少年壮二君が、夢に見たあの窓です。その下には、壮二君が仕掛けて置いた鉄の罠が、鋸(のこぎり)のような口を開いて、獲物を待構えている筈です。夢は正夢でした。すると、もしかしたら、あの罠も何かの役に立つのではありますまいか。
 アア、もしかしたら!

江戸川乱歩『怪人二十面相 私立探偵明智小五郎』

ここでは、前の章で壮二君が二十面相を捕まえるために置いた鉄の罠の存在を、読者に思い出させています。

そして最後「アア、もしかしたら!」で終わらせることにより、

もしかしたら、この罠に二十面相が引っかかるのでは?

と読者に先を予想させて、続きを読みたくならせています。

このように、先を仄めかし、次が読みたくなる文章構成は、作中最初から最後に至るまで異なる表現で練り込まれています。

読者を楽しませるために自分本位な文章を省き、常に読み手のことを考えて作られた作品だということが伝わってきます。

『怪人二十面相』の感想

とにかく読みやすい

初めて『怪人二十面相』を読んだ時、その読みやすさと、「読者諸君!」の印象的に語りかける文章を見て衝撃が走りました。

事件発生から解決まで時間を取らずに進んでいくためスピード感があり、各章も短いため読む集中力が切れません。

巧みに先を仄めかす文章で続きが気になり、ページを捲る手が止まらず、一気に読めました。

読んでいる最中ずっとワクワクする作品で、大変面白いです。

少年向けに作られていますが、内容は子供から大人まで楽しめるため、世代関係なしに読みやすい作品だと思います。

過去から現代に繋がっていくオマージュ

過去の作品からの影響

探偵小説で世界一有名なコナン・ドイルの作品『シャーロックホームズシリーズ』は、作中でもチラッと出てきます。

探偵とそれを支える助手の形は、シャーロックホームズから続く探偵小説の王道の形となっており、『怪人二十面相』での名探偵明智小五郎とその助手小林君もその形に倣っているのでしょう。

現代の作品への影響

現代への影響としては、漫画『名探偵コナン』が挙げられます。

主人公の江戸川コナンが、江戸川乱歩の苗字を使っていることから察する通り、オマージュしている部分も多いです。

また『名探偵コナン』で登場する怪盗キッドは、

  • 変装が上手い
  • 予告状を出してから美術品を狙う

など怪盗二十面相に酷似しています。

さらに、怪盗キッドの母は「昭和の女二十面相」と呼ばれた盗賊であるという設定もあるくらい、『怪盗二十面相』の影響を受けてます。

「少年探偵団」自体も『名探偵コナン』に出てきますね。

過去の名作が現代へオマージュしながら引き継がれ、影響を与え続けているのは感慨深いものがあります。

心から満足させるエンタメとしての小説

『怪人二十面相』は一気に読むことができて、読後モヤモヤが一つも残りません。

それは、

  • 伏線が全て回収されている
  • 登場人物の必要な見せ場がちゃんとある
  • 最後は正義が悪を倒すハッピーエンド

という読者が求めているものを、すべてまとめて提供してくれているからでしょう。

『怪人二十面相』は読者を惹きつけて楽しませ、心から満足させるエンタメとしての小説の、完成された一つの形だと思います。

以上、江戸川乱歩『怪人二十面相』のあらすじ・解説・感想でした。

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はなもぐら

最近小説以外に、詩も気になり始めています。趣味は音楽で、宮沢賢治、石川啄木などの詩人も楽器を弾いていたと知り、親近感を覚えています。作家と作品の魅力をいちファンとして伝えていきたいです!