小説『ECHO』(エコー)あらすじからボカロ曲との違いまで!

  1. HOME >
  2. 日本文学 >

小説『ECHO』(エコー)あらすじからボカロ曲との違いまで!

『ECHO』(エコー)についての紹介

『ECHO』は2016年にPHP研究所から刊行された本で、著者はあんスタ!!などのシナリオを手がける日日日(あきら)さん、イラストは艦これなどのイラストを手がけるおぐちさんです。

このお話は元々2014年にCrusher-P(クラッシャーピー)がニコニコ動画に投稿した「ECHO」が原作で、総視聴数は8000万再生越えの「時代問わず超人気」のボカロ曲です。

また原作者のCrusher-Pさんは北米在住のため、歌詞は全て英語なのが特徴的でもあります。

ここからは、そんな『ECHO』のあらすじや解説、感想、原作との違いを語っていきます。

『ECHO』・あらすじ1 ~白~

序章

作業服の女の前に複雑にこんがらがった屍体がある。

突如、羽化するごとく屍体から血まみれの少女が出でくる。

そして少女は女に問う。「羽根森 浄瑠璃さん――ですか?」

‣第一章

いつものように店番をしていた眸は目を覚ますと奇妙な遊園地にいた。

途中、三人(眩島 鏡森 生飯)と出会い、共に行動することになる。

眩島が探索しに行っているもう一人(小伐介)を連れてくる間、突然の火事が残された三人を襲う。

何とか逃げ切りベンチで休憩しているとき、ふと気になった眸は「鏡森が生飯をいじめている」という噂について生飯本人に訊く....。

遠くから視線を感じ振り向くと、遠くから手招きをしている着ぐるみを見つけた。

‣第二章

手招きする着ぐるみに近づいてみると中身は、疎遠になった幼なじみの小伐介だった。

そのまま小伐介が見つけた秘密基地(地下管理室)に行き、情報交換をしながら鏡森や生飯、眩島について話しをする。

管理室の監視カメラモニターをいじっていると画面が暗転し、突然鏡森がアイドルのように歌って踊る不思議な映像が流れ出した....。

第三章

そして突然プツンと切れ、嫌な気配を感じ地下管理室の扉から地上をのぞくとそこは火の海と化していた。

必死に藻掻く姿をTV少女に見降ろされながら、何とかお土産屋らしき建物に非難する。

休憩も束の間、今度はベンチで休憩していた鏡森や生飯たちが「なめくじ」に襲われそうになり、助けに行くことに。

逃げる途中、生飯が「猿」に吹き飛ばされ意識不明の重体になる....。

第四章

翌日の朝、眸は鏡森と姿をくらましていた眩島は腹ごしらえを、一命を取り留めた生飯は安静にし、小伐介は調査に行った。

食事後、眸はなぜか鏡森に連れられて観覧車に乗り、鏡森の夢や恋について話し合う。

が、鏡森は眩島の「死ねば脱出できる」という言葉を信じ、観覧車から飛び降り自殺する。

三人を殺したのは眩島だと突き止めた眸は殺されそうになるが、後ろから現れた小伐介が眸を助ける。

眩島を殴ったことで生命を使い果たした小伐介をおぶり遊園地の敷地外に出るが、荒野が広がるのみで奇妙な異次元からは出られなかった。

眸が絶望しているなか、生飯の見た目をしたTV少女ことPRIMADONNAにここに来た原因や理由を教えられ、元の世界に返してもらえることに。

終章

作業着の女、小百合は屍体から出てきた少女、電器屋眸から異次元で娘らに起きた事を聞かされる。

眩島はかつてのスーパーアイドル羽根森浄瑠璃の噛ませ犬として扱われていたアイドルの息子だった。

小百合は、いや羽根森は、だから眩島は娘である生飯を殺しに町へ来て、山に火を放ったことで近くにいた鏡森と小伐介が巻き込まれたのだと推測する。

また、電器屋眸は四人が死んだときたまたま近くにいたので、間違えて死後の異次元に送り込まれてしまったらしい。つまりあの異次元で眸だけが「生きた人間」だった。

喫茶店を後にしようとするが眸の顔色が優れず、心配する小百合。

そんな小百合に眸は微笑んで言った。「ちょっと、TVを見ていただけです。」

あらすじ2 ~黒~

裏番組1

小百合が娘にあげた壊れたTV画面のから鳥?の卵が見つかる。

興味深く感じた娘は卵を育てることにする。

裏番組2

定点観測中に羽根森のグッズが大量に置かれた小屋を見つけ、気分が悪くなる小百合。

帰宅後、娘と孵化した小鳥たちの話しをしていたところ、突然それらの鳴き声が奇妙なメロディーを作り出し、娘はそれに合わせ壊れた機械みたいに歌い続けた。

裏番組3

小百合は羽根森時代の、元恋人に殺されかけた夢を見ていた。

嫌な夢から覚めると、不意に電話が鳴り響いた。

電話はどうやら娘が死んだらしいという内容だった。

『ECHO』・登場人物

~人間 白~

  • 電器屋 眸(でんきや ひとみ):高校二年。町の電器屋の娘。よく店番を手伝わされる。
  • 鏡森 萼(かがみもり うてな):高校一年。町を牛耳る鏡森グループの令嬢。落ち着きがない。
  • 生飯 虜衣(さば とりい):高校三年。背は高いが猫背。常に陰気で憂鬱な雰囲気。
  • 見代 小伐介(みしろ こうすけ):高校二年。眸の幼なじみ。やんちゃな性格。
  • 眩島 憂大(くらしま ゆうだい):大学生くらいの。一応芸能人らしい。余所者。

~人間 黒~

  • 小百合(さゆり):基本的に無気力。鏡森が所有する山小屋で「娘」と暮らしている。
  • 羽根森 浄瑠璃(はねもり じょうるり):かつてのスーパーアイドル。小百合と関係が....?

~異世界(異次元)~

  • PRIMA DONNA(プリマドンナ):TV少女。遊園地(異世界)の捕食者(プレイヤー)。
  • 羽虫、なめくじ、猿:遊園地の捕食者。

『ECHO』の関係図

眸→ 幼馴染→ 小伐介
眸→ 町のお嬢様→
眸→ 美青年→ 憂大
眸→ いじめの噂が気になる→ 虜衣
小伐介→ 幼馴染→ 小伐介
小伐介→ 仕方ない→
小伐介→ 何かある→ 憂大
小伐介→ いじめの噂が気になる→ 虜衣
虜衣→ いい子→ 小伐介
虜衣→ 守る→
虜衣→ ?→ 憂大
虜衣→ いい子→ 虜衣
萼→ 好き→ 小伐介
萼→ 可笑しな名前→
萼→ 頼りになる→ 憂大
萼→ 気持ち悪い→ 虜衣
憂大→ ?→ 小伐介
憂大→ 懐っこい→
憂大→ 賢そう→ 憂大
憂大→ ×××→ 虜衣

『ECHO』・解説1 ~原作との違い~

原作の謎を解くための説明書

本書では原作から読み取れることを登場人物に置き換えてストーリーが紡がれています。

例えば原作の初めの歌詞は

THE CLOCK STOPPED TICKING FOREVER AGO
ずっと昔に時計の針は動きを止めた

『ECHO』

とあります。

歌詞だけ見ると時計のことなのか、はたまた命のことなのか定かではありません。

ですが本書は原作よりも具体的なストーリーがあり、物語の始まりと過程と終わりが明確です。

そのため、先ほどの歌詞は本書の冒頭からの登場人物である小百合に関係しています。

「小百合の中のもう一人の自分の時間を止めた」、つまり「小百合が羽根森浄瑠璃として生きることをやめた」という意味になります。

また、本書があることで原作の歌詞の意味を理解し捉えることができますし、歌う上でも感情の込め方や狂気的な歌い方を表現できることにも繋がります。

このように、本書は「原作での謎を解くことができる説明書」のような本です。

『ECHO』・解説2 ~原作のモデルと本書~

ギリシャ神話、エコーとヘラ

そもそも『ECHO』の原作の歌詞にはモデルとなったギリシャ神話があります。

簡単なあらすじ⇓


歌とおしゃべりが好きな森の妖精エコーはある日嫉妬の女神ヘラの怒りを買い、自発的なおしゃべりを封じられてしまう。
その後エコーはナルキッソスという青年に恋をするが、相手にされることはなく結果実らずに衰弱死し彼女のコダマだけが残った。

この話を本書『ECHO』に当てはめると、エコー→小百合(羽根森)、ヘラ→眩島(の母)、ナルキッソス→小百合の元恋人(の鏡森社長)という解釈もありますし、エコー→鏡森萼、ヘラ→生飯虜衣、ナルキッソス→見代小伐介の解釈もあると思います。

また、『ECHO』は「二面性」も大きな題材となっている作品のため、それを「小百合と羽根森」で表現し、羽根森がエコーで小百合がヘラである可能性もあります。

このように、どの人物にもエコーやヘラの特徴や二面性を感じるので解釈の幅は広いですし、どの組み合わせでもストーリーに納得がいくところに作者様の構成力の素晴らしさを感じます。

『ECHO』・感想1 ~本書の魅力~

背景に隠された光と闇の二面性

本書はそれぞれの背景がとても深いです。

先ほどどの組み合わせでもストーリーに納得がいくと言いましたが、それは全員結びつきが深いから言えることなのです。

例えば、関係図にも書いてありますが、萼が虜衣をいじめられている噂がありました。

事の始まりは、萼が「羽根森こそが実の母親だ」と勘違いをしたことがきっかけでした。

アイドルを目指し始めた頃、萼は何らかの形で父が昔スーパーアイドル羽根森と浮気していたことを知り、本当は血が繋がっていて自分にもアイドルとしての才能があるのではと期待したのです。

(これは憶測ですが妊娠したときエコー検査と言われる超音波検査をしますが、小百合が娘を授かったのと関係があったとしたら『ECHO』という題名にも納得がいきます。)

だから羽根森と血の繋がった虜衣に話しかけ、聞き出そうとしたのだと思います。

そこまでは良かったのですが、問題はそれを勘づいた取り巻きが萼の気持ちを分かった気になって、虜衣をいじめだしたことです。

そのため町を牛耳る鏡森グループのご令嬢である萼が権力を振りかざし、いじめていると勘違いされてしまったのです。

そして、「光」に手を伸ばした少女の将来は最終的に「闇」に包まれ、二度と光を浴びることはなくなってしまいました。

このように、今回は萼だけでしたが他の人たちの背景にも深い「闇」と「光」の「二面性」が見え、改めてこの話に引き込まれました。

感想2 ~原作の魅力~

世界観をより豊かにするボカロと英語の最強タッグ

原作は歌詞が全て英語で、それをボーカロイドのGUMIが歌唱しています。

そのためパッと聞いただけではすぐに意味を理解できないので、何を言っているのか分からない恐怖感と耳に残る奇妙な中毒性があります。

GUMIの歌い方は悲痛な叫びのようにも、どこか俯瞰しているようにも感じられ、まさに異次元で「生」に縋る眸たちと、人の「死」を俯瞰し続けるPRIMADONNAそのものだと思いました。

またボカロだからこその滑舌や無機質な感情はPRIMADONNAの無に近い機械めいた言動と重なり、作品の世界観をより豊かにしています。

初見は奇妙さや違和感を感じる音楽ですが、2回3回と聴くうちに不思議と心地よさを感じだし気がつくと一緒に歌ってしまっています。

機会があれば是非聴いて、『ECHO』の世界観に飲み込まれてみてください。

以上『ECHO』(エコー)の紹介でした。

  • この記事を書いた人
  • 最新記事
アバター画像

いい肉野菜

読書歴10年。本に対する自分の「好き」を伝えたいと思いライターを始めました。小説や漫画、作家やジャンルに関係なく何でも読みます。趣味は読書や音楽鑑賞、歌うことです。特技は家事全般で、特に掃除が好きです。作業のときに流す音楽はアニソン、K-POP、フリーBGMです。